hon-nomushi’s blog

人生の友になる本との出会い

ドラマから興味を持って カリン・スローター『彼女のかけら』

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読むのに少し時間のかかる本のご紹介が続いています。

『彼女のかけら』。

以前Netflixで見たドラマの原作です。

人は身近な人のことを本当に全部理解しているのだろうか?

知っているのだろうか?

という問いかけが恐ろしく、胸に突き刺さる小説でした。

 

主人公はもうすぐ30代の冴えない女性。

母と一緒にレストランで食事をしていたところ、

銃乱射事件に巻き込まれます。

そこで自分も狙われるのですが、

なんと普通の主婦だと思っていた母が犯人と対峙したことで、

母の知らなかった一面を見せつけられることに。

そこから危険な目にあいながら、

母のたどってきた人生を紐解いていく小説です。

 

人は隣にいる人のことを、どれほど知っているのだろうか?

そんな問いは常に人間関係にはつきまとっている気がします。

ましてや家族は近しい存在だけれども、

どれほど家族のことを知っているのだろう…。

実は全く知らないのかもしれない。

それが怖いことではなくて、

その人を知ることの深さ、怖さ、面白さを

描いた作品だと思います。

 

ある程度ドラマで先を知っているはずが、

小説が面白くて止まりませんでした。

結果寝不足…。

楽しいハッピーになる小説ではないですが、

時間のあるときにぜひ読んでみてください。

深い感動につつまれる読後 ラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』

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読み終わった後の静かな感動を、どう表せばいいのだろうか。

長い登山を終えて、そして下りきった後にも美しい景色が待っていた。

そうお伝えしたらこの本のすばらしさをわかっていただけるだろうか。

 

たまたま新しい職場の図書館で出会った本だけれど、

きっと今まであまり手に取られることはなかったに違いない。

結構なボリュームのある本だから。

けれど、まるで山頂の美しい景色を見た途端、

長く苦しい道のりを忘れてしまうように、

読んだことを全く後悔しない本であることは間違いない。

 

この本はCIAがソ連で禁書となっている本をわざわざ西側諸国で出版し、

それをソ連内で配布し人の意識を変えようとする作戦が元になって

書かれている物語です。

もちろんフィクションだけれど、あとがきを見ると

実際にそういう意図で配布された本があったようです。

ただ作戦そのものではなく、

その本の作者と愛人、そしてCIAで活躍する女性たちに

光が当てられています。

 

このCIAで働く女性の描写がとにかくすばらしくて、

読後の今でも私のなかで生き生きと本当に存在する人のように

感じられるのです。

秘密作戦から仲良くなった職員の女性たち。

特に親友のようになり、やがて互いを愛するようになった2人の様子。

大きな作戦の裏にいた女性たちの活躍。

本の内容を思い出すだけでもう一度この世界に浸りたくて

ため息が出てしまう。

 

実際、この本が発売される前から版権を争って、

たくさんの出版社が名乗り出て競い合ったそうです。

 

どうぞ出会ったら徹夜覚悟で、

ぜひ読んでみてください。

 

 

 

 

 

4年生の読書① 江戸川乱歩 少年探偵シリーズ

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もう子どもは5年生になってしまいました。

でも振り返りで4年生の読書を記しておこうと思います。

 

4年生の最初、大好きだった図書館から遠く離れてしまって、

とても残念がってあまり本を読まなくなっていました。

けれど近くの同じ小学校を卒業した子に、

「少年探偵シリーズ」を進めてもらってからは、

図書館通いが復活。

山のように乱歩を読んでいました。

 

同じ学校の先生もたまたま少年探偵がお好きで、

本をお借りしたり色々しながらすっかりはまって過ごしていた彼。

4年ともなると様々な本を借りるもので、

大人の本にも少し手を出したり、

わたしがわざと椅子に置いておいた本を読んだりして、

うれしいことに2人で読書する時間もたくさん増えました。

 

特に去年は2人暮らしだったので、

夜テレビをつけないわが家では

夕食後は静かに読書の時間となりました。

お風呂まで、わたしの最後の家事時間の間、

ずっと静かに本を読んでくれたのはありがたいことでした。

ほんとうはわたしも家事をせず本を読みたかったなあ。

 

とはいえそんなこんなで乱歩から始まった4年生の読書。

しばらく振り返りの記事を続けておきます。

 

大人のためのファンタジー ジュディス・ロッセル『ステラ・モンゴメリーの冒険①②③』

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子どもがハリーポッターにはまっているので(5年生のはじまり)、

ファンタジーの棚によく行くようになりました。

そこでみつけたなんだか地味な表紙の(失礼?)本。

今、3部目を読んでいます。

面白いです。

 

主人公のステラは母を失くして、父親はわからず。

いじわるで病気がちなおばさま3人が様々な療法を試すために、

国内を旅してまわっています。

けれども①で徹底的におばさまたちから嫌われ、

②ではいとこたちと家庭教師から学ぶように追い払われ、

そして③では母もおばたちも入学していた名門の学校に入れられます。

 

学校の厳しさは、時代もあって本当につらいもの。

そして寄宿学校だから、夜も昼も規則でがんじがらめ。

そう考えると学校は結構進化してきたのでは?なんて

ついそんなどうでもいいことを考えてしまいます。

 

実は主人公のステラは身体を消すことのできる

特別な能力を持っています。

確かに、特別な能力ではあるのだけれど、

彼女自身は先生の横暴に困ったりしていて、

特殊な能力があるからといって、

人生の困難からは逃れられていない模様。

そんなさりげない特別な能力の描き方が

すごくいいなあ、と思っています。

 

子どもの頃は何でも解決できる幸せな魔法が好きだったけれど、

魔法を持っていても困ったり悩んだりする。

そんな姿があるからこそ、

現実に生きる大人にもすごく親近感をわかせるのではないか、

と考えています。魔女の宅急便のキキのように。

 

さて、今後この主人公はどうなっていくのかしら。

まだ最後まで読んでいませんが、

もし①を見つけて借りたとしたら、ぜひ③まで借りておいてください。

続きが読みたくなること、請け合いです。

 

みなさま、良き週末を!

 

便利な図書館の電子書籍 尾崎友吏子『時間とお金にゆとりができる「小さな家」』

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ただいま!

長崎の引越しを終えて戻ってきました。

予定やら会いたい方とのごあいさつで、

あわただしい日々を過ごしていました。

持って行った本は1冊だけ。

空いている時間に近くの図書館で本を読んでしのいでいました。

けれど家で少し時間ができて、

ふとこの尾崎さんの本の在庫をカーリルで調べたら、

なんと電子書籍であるとのこと!

神奈川のいつも使っている図書館の電子書籍だったのですが、

ログインしてお借りして、長崎県で読めたのです!

読みたかった本がすぐに遠方でも読めるという体験が、

とにかく新鮮でした。

いつも借りている方には「今更?」の電子書籍ですが(笑)、

わたしには本当に衝撃でうれしいことでした。

 

さて肝心の本の内容!

大好きなCozynestというブログの作者で、

建築家でもある彼女が小さな家に引っ越した後の

生活の楽さ、お金の節約について書いている本です。

 

わたし自身は引越しを終えて一つにまとまった時、

たくさんの荷物を見て驚いたばかり。

ミニマムに暮らすことが大好きなのだけれど、

やっぱり引っ越しをすると物の多さに驚愕します。

段ボールいくつなら次の引越しで楽だろうか?

そんなことばかりを考えていました。

 

尾崎さんは小さな家を選ぶメリットや、

キッチンの配置についてなど、

様々なご自身の生活の側面を参考にしながら

書いてくださっています。

大きな家と小さな家の固定資産税や、

生涯賃金も含めて書いてくださっているので

本当にわかりやすく、ためになりました。

そして、家自体の価値やごみになる資材のことなど。

考え方に共感できることばかりでした。

 

わが家は一度50㎡から一軒家に戻りますが、

今後を見据えて物の量は厳選していくつもり。

 

尾崎さんの説得力のある文章は、

家の大きさに悩んでいる方にぜひ一読して頂きたいと思います。

 

種というちいさな記憶体 岩崎『種をあやす』

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長崎の小浜温泉近くに、タネトという野菜の直売所があります。

プラスチックフリーで地元の元気な野菜を扱っているところ。

 

そこによく岩崎さんのお野菜があって、種取り農家さんという存在を

初めて知りました。

なるべく野菜は元気なオーガニックのものを食べたいと思っていましたが、

神奈川にいるときは生産者の方にまであまり想いが行き届いていませんでした。

けれど長崎で暮らしたことで、

生産者の方の顔がしっかり見える関係が沢山できました。

 

この本は岩崎さんの種取り、農業の様子、日々の静かな戦いが

良くわかる本でした。

戦い、というとなんだかですが、美味しい野菜を作るために

どれほど苦労なさったかが良くわかる本です。

 

本当はオーガニックであれなんであれ、食べ物は沢山の人の手を経て

スーパーに並んでいることを、長崎に住むまでは体感として全く

理解していなかったように思います。

季節の野菜はある程度理解していたけれど、

野菜の取れない端境期(はざかいき)があることも、

タネトに通ってよくわかりました。

 

野菜があるのは当たり前ではないことは、

自分でにんじんを育ててみて初めてわかりました。

そして種というものに対して、畏敬の念を持ちました。

だって、あんなに小さな一粒から、

緑がでてきてにんじんができるのです。

初めて小さなニンジンを畑から掘り出したとき、

静かな感動を覚えました。

 

農業に興味のない方にも、

岩崎さんの本を通して

ぜひ種のすばらしさに触れてみてください。

 

 

心の動きを丁寧に追う小説 群ようこ「れんげ荘物語」

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群さんの小説が大好きなのに、読んだことがなかったれんげ荘の物語。

先週のひととき、シリーズ全冊を楽しみました。

 

主人公は40代。

それまで嫌なことをして働いて、

気の合わない母親との生活をしていた彼女は、

仕事を辞めて働かないで暮らすために、

月々10万円で暮らすことにします。

見つけなければならなかったのは、

家賃の安い家。

そこで3万円のれんげ荘に移り住みますが、

れんげ荘は本当にぼろぼろのアパート。

シャワー室とトイレは共同。

だけれども主人公のキョウコは、

家にはなかった安らぎを感じます。

隣人たちもまた一癖ある人達だけれど、

家族よりもよっぽど気の合う人たち。

 

そんなアパートで始まったキョウコの毎日は、

仕事がないので毎日が自由。

聞こえはいいけれど、それまで必死で働いてきたキョウコは

そんな日々に慣れるのに苦戦します。

そのあたりの毎日の描写がリアルで、

そこが一番楽しめました。

何もしていないはずなのに、

キョウコの生活にはたくさんのことが起きていきます。

だって、れんげ荘シリーズは5冊も続いているんです。

もちろん小説だから、なのだけれど、

その出来事は誰の人生にもありそうなことばかり。

だからこそなのか?

その日常がとっても面白いんです。

1冊読み始めたら止まらなくなるはず。

 

読者の中にはキョウコのおかげでなんだか勇気が出て、

新しいことにチャレンジする方もいらしたのでは。

おとなりのクマガイさんがキョウコに言葉が素敵だったので、

ちょっと長いけれど『おたがいさま』から引用しておきます。

「あなたは幸せね。私、本当にそう思うのよ」

突然、そういわれてキョウコはびっくりした。

…(途中略)

「うん、わたしは見ていてそう思う。ここに来るまではいろいろなことがあったのだろうけれど、それをすっぱり切り離せたじゃない。世の中の多くの人は、いやだと感じていても、切り離せないのよ、ふつうは。いやだいやだと思いながら、毎日を過ごしていて、それがたまって顔つきに出ちゃうのよね。あなたはそれがないもの。私も会社を辞めたいとか離婚したいとか、何人もの人に相談されたけれど、その後、会社も結婚生活も辞めた人は一人もいなかったわね。」

…(途中略)

「だいたい本気で退社や離婚したい人は、相談なんかしないですぱっと思いきるわよね。相談するってこと自体、おかしいのよ。私はこういうふうにしたいのだけど、どういう段取りにしていいのかわならない、っていうのなら前向きな相談だけど、結局、あの人たちは不満を持っているのは間違いないけれど、同じところをぐるぐる回っているだけなのよね。そこから出るのなら、自分が思い切ってジャンプしないとね。誰も悩んでいる沼から身体を引き上げてくれるわけでもないし、自分で決めないとだめなのにね。それができないから、みーんなぐずぐずいつまでも沼の中で文句を言い続けて、それで一生を終わるんだよね。まだあきらめられる人は、それはそれでいいんだけど」

だからそれを切り捨てたあなたは幸せなのだと、クマガイさんはキョウコにいった。