hon-nomushi’s blog

人生の友になる本との出会い

ひとりの時間の物語 いぬいとみこ『山んば見習いのむすめ』

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今日、わたしの住む地域では風が強くて、春のようなあたたかさ。

春を迎えたらもう一度読もうと思っていたこの本を手に取りました。

 

子どものころは外国のお話ばかり読んでいましたが、大人になった今は、日本の物語にとても心ひかれます。いぬいとみこさんも、素通りしていた作家のおひとり。

でも今この作品に出会えたことが、とてもよかったんです。なんせ、これは静かな物語。わたしが子どもだったころは、良さがわからなかったと思うからです。

 

山んば見習いの主人公は、一人話し相手もいない中で魔術の勉強にいそしみます。上手くいかないことばかり。それでも続けて修行をし、その様子をモグラが見守っています。すごく、静かです。大きな出来事があるわけでもないし、魔法が大々的に取り上げられているのでもない。だけれどもその静けさに大きな深い味わいがあって、静かな雪深い山にこもっている主人公の気持ちが、丁寧に描かれています。子ども向けの作品のようだけれど、静かさを恐れずにまっすぐ描く作者の力量に、ただただ感嘆します。

 

まるでふきのとうの天ぷらみたい。大人になるとあの苦さがくせになるように、何度も静かに読み返したくなる作品。春の訪れ前にぜひ、の一冊です。