書店で文庫が並んでいるのを見て、吸い込まれるように魅せられた作品。初めて出会ったケイト・モートンの物語をご紹介します。
本との出会いは人との出会いとよく似ていると思います。たまたま出会った人と親友になることがあるように、 思いがけず手に取った作品に深く魅せられることがあります。この作品ともたまたま最近書店で見かけてからというもの、頭から離れなくなりました。
まずは何といってもタイトル!『秘密の花園』が大好きで、朝5時から真似して庭に球根を埋めていたわたしにとって、「~花園」というタイトルに目を捉えられました。
そしてなんと翻訳のなめらかなこと! 3人の主な登場人物の姿が、時代を変えながら次々と描かれているので、ついていくのがやっとのストーリー展開。ですが文体の読みやすさもあり、流れに乗るように読書が進んでいきました。そのうち3人の関りが明らかになり、なぜこの3人が主な登場人物なのか、おぼろげにわかってきます。そうするともう止まることができなくなり、かなりの夜更かしをしながら読み切りました。
主人公のうちの一人、ネルは自分が港に捨てられていた存在であることを、ある誕生日に育ての父親から告げられます。もう一人は、ネルの孫。ネルが亡くなってから、自分にイギリスの家が相続されていることに気が付きます。
物語はネルが自分の親を探しに、イギリスに渡るところも描かれていきます。本当の自分の名前は何か、本当の両親はどこにいるのか。ネルが探るのと同時に、そのときは誰かわからない、もっと昔の時代の登場人物が現れます。そうしてルーツを探る旅に読者も巻き込まれていきます。
ところが物語が進むにつれて、自分の本当の名前を知ることが第一なのではなく、親を発見するだけではなく、その人が生きた道そのものを知るという冒険になっていきます。静かだけれど確かな人生の歩みがしっかりと記されて、そして現代を生きる主人公の生きる力につながっていました。深く味わい、何度も読み返したくなるラストでした。長いお休みにぜひおすすめの1冊です。
そしてもう一つ。表紙をみて何か見覚えが、と思ったら、桑原弘明さんのスコープでした。数少ない自分の本の中に作品集が。小さなものに目がない私には宝物の本です。こんなつながりをどこかでキャッチして、作品に惹かれたのかもしれません。