イギリスを代表する児童文学作家、サトクリフのことは大学の児童文学授業で良く耳にしていました。でも元気な時や余裕があるときでないと、サトクリフの重厚な世界に押しつぶされそうで…。いまだに読破できていない、気になるけれどなかなか手にとらない作家のひとりです。
そんな印象だったサトクリフの作品ですが、この本は小さくて薄く、表紙の装丁に息づかいを感じたので、つい手に取ってしまいました。「よいしょ」と、読み始めるのに少し勇気がいりましたが、現実世界から隔離されることなく読める作品でした。
主人公はあるとき自分の人生の要となる描くことに目覚めます。ところが部族は戦争で囚われの身になり、自由を奪われた中で表紙の作品を作り出すことを求められます。
あまりストーリーを説明すると中身が伝わりすぎてしまうほどシンプルな構成なのですが、物語が上滑りしないのは、主人公の芸術へのかかわり方がとてもリアルだから。シンプルな文章の中、主人公の存在や息づかいを感じるほど、作品を生み出すときの状況がつぶさに描かれていました。
実際にイギリスに表紙の白馬は存在するそうです。もちろんこの小説は創作で、なぜこの白馬が描かれたのかは謎のままなのですが、物語を読んでから訪れることができたら、もはや物語の背景なくてはこの馬が存在しえないかもしれない、と思ってしまいそうです。一度見てみたいなあ。イギリスにずっとあこがれていた子どものころ。そろそろ訪れてみようかな。
サトクリフを読み始めようとするわたしに、最適な一冊でした。