hon-nomushi’s blog

人生の友になる本との出会い

同じ街から様々な人を知る あさのあつこ『かんかん橋を渡ったら』

 

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ちょっと前に読んだ作品ですが、忘れられない一冊。

地方の人口が少ない街にある、ちいさなかんかん橋。そこを行きかう人たちの様々な人生を、章ごとに異なる主人公が生きる様を描いた一冊でした。

 

街の様子は一貫してさびれていて、大きな出来事もなにもない、話題にもならない小さな地方の街。でもそこを行き交う人たちには様々なバックグラウンドがあり、今がある。かかわりあう人の関係が、一人ひとりの人生とともに深く描かれていて、自分もその街にまぎれこんだかのようなリアリティのある小説でした。その深みをしっかり味わう読書になりました。

 

特に印象的だったのは、厳しい父から離れたくて早くして結婚、子どもを持った主人公の姿でした。幼いころから父の文句ばかり言う母。こんな結婚はしたくないと、自分で家庭を持ってみると若いことから起きる、結婚相手とのすれ違い。でも彼女は、かんかん橋を行き交う人に助けられて、初めて自分が人生の主人公だと気づき、人生を変えていく強さを持つようになっていきます。子育ての葛藤、人との関り、夫となる人との関係、そのすべてがリアリティにあふれていて、何度も人の強さにじんとなりました。

 

様々な人がいて、行き交うことで生まれる一つの街の歴史。本になったり、記録をされるものではない人たちの人生だけれど、それが本当にとおといものなのだと実感した読書でした。よかった。なんでもない偶然ですが、数か月後の義父の家に行ったら、この本が置かれていました。義父はどの主人公が印象に残ったか、今度聞いてみようと思います。