子どものころ、習い事の先生から不要になった「世界児童文学全集」なるものを大量に譲っていただいたことがあります。それは国別に有名な作品がおさめられている文字通りタフな全集でしたが、それはそれは愛読したものでした。
興味のない国の全集はなまいきにもほぼ手に取らなかったけれど、アメリカやフランスのものは、何度読んだことか。表紙に有名な絵もついていたので、その絵のことは今でも覚えているほど。
それから数十年。3年ほど前、恋愛についてのエッセイなどによく引用されている、田辺聖子さんの作品を読んでみたいと思いました。でも、作品があまりに多くて、どれから読んだらよいのか見当がつきません。それならと全集に手を出してみたらば、これがまあ、面白いのなんの!
分厚いので持ち運びには適さないことこの上ないのですが、面白さに途中でやめられなくて、通勤電車にも欠かしませんでした。小粋な女性たちの魅力に圧倒されて、結局全集を読み倒してしまいました。
全集だったからこそ読むことができた作品たち。手に取るまで映画になっている「ジョゼと虎と魚たち」が田辺さんの作品だとは知りませんでした。
そして昨日、食べ物で「あ、今あれが食べたい!」と思うように、強烈に読みたくなったのが全集5に入っている「シクラメンの窓」という短編。主人公は60代。電車から見える窓に飾ってあるシクラメンがきっかけで出会う2人の物語です。男女の距離が絶妙で、そのあたりを的確に書いている田辺さんに脱帽します。
全集と名付けられていると、たいてい重くてそっけなくて手に取りにくい顔(表紙)をしているものですが、実は親友になる作品が隠れているかもしれません。この全集はわたしの大切な友達です。