hon-nomushi’s blog

人生の友になる本との出会い

心の動きを丁寧に追う小説 群ようこ「れんげ荘物語」

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群さんの小説が大好きなのに、読んだことがなかったれんげ荘の物語。

先週のひととき、シリーズ全冊を楽しみました。

 

主人公は40代。

それまで嫌なことをして働いて、

気の合わない母親との生活をしていた彼女は、

仕事を辞めて働かないで暮らすために、

月々10万円で暮らすことにします。

見つけなければならなかったのは、

家賃の安い家。

そこで3万円のれんげ荘に移り住みますが、

れんげ荘は本当にぼろぼろのアパート。

シャワー室とトイレは共同。

だけれども主人公のキョウコは、

家にはなかった安らぎを感じます。

隣人たちもまた一癖ある人達だけれど、

家族よりもよっぽど気の合う人たち。

 

そんなアパートで始まったキョウコの毎日は、

仕事がないので毎日が自由。

聞こえはいいけれど、それまで必死で働いてきたキョウコは

そんな日々に慣れるのに苦戦します。

そのあたりの毎日の描写がリアルで、

そこが一番楽しめました。

何もしていないはずなのに、

キョウコの生活にはたくさんのことが起きていきます。

だって、れんげ荘シリーズは5冊も続いているんです。

もちろん小説だから、なのだけれど、

その出来事は誰の人生にもありそうなことばかり。

だからこそなのか?

その日常がとっても面白いんです。

1冊読み始めたら止まらなくなるはず。

 

読者の中にはキョウコのおかげでなんだか勇気が出て、

新しいことにチャレンジする方もいらしたのでは。

おとなりのクマガイさんがキョウコに言葉が素敵だったので、

ちょっと長いけれど『おたがいさま』から引用しておきます。

「あなたは幸せね。私、本当にそう思うのよ」

突然、そういわれてキョウコはびっくりした。

…(途中略)

「うん、わたしは見ていてそう思う。ここに来るまではいろいろなことがあったのだろうけれど、それをすっぱり切り離せたじゃない。世の中の多くの人は、いやだと感じていても、切り離せないのよ、ふつうは。いやだいやだと思いながら、毎日を過ごしていて、それがたまって顔つきに出ちゃうのよね。あなたはそれがないもの。私も会社を辞めたいとか離婚したいとか、何人もの人に相談されたけれど、その後、会社も結婚生活も辞めた人は一人もいなかったわね。」

…(途中略)

「だいたい本気で退社や離婚したい人は、相談なんかしないですぱっと思いきるわよね。相談するってこと自体、おかしいのよ。私はこういうふうにしたいのだけど、どういう段取りにしていいのかわならない、っていうのなら前向きな相談だけど、結局、あの人たちは不満を持っているのは間違いないけれど、同じところをぐるぐる回っているだけなのよね。そこから出るのなら、自分が思い切ってジャンプしないとね。誰も悩んでいる沼から身体を引き上げてくれるわけでもないし、自分で決めないとだめなのにね。それができないから、みーんなぐずぐずいつまでも沼の中で文句を言い続けて、それで一生を終わるんだよね。まだあきらめられる人は、それはそれでいいんだけど」

だからそれを切り捨てたあなたは幸せなのだと、クマガイさんはキョウコにいった。