hon-nomushi’s blog

人生の友になる本との出会い

便利な図書館の電子書籍 尾崎友吏子『時間とお金にゆとりができる「小さな家」』

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ただいま!

長崎の引越しを終えて戻ってきました。

予定やら会いたい方とのごあいさつで、

あわただしい日々を過ごしていました。

持って行った本は1冊だけ。

空いている時間に近くの図書館で本を読んでしのいでいました。

けれど家で少し時間ができて、

ふとこの尾崎さんの本の在庫をカーリルで調べたら、

なんと電子書籍であるとのこと!

神奈川のいつも使っている図書館の電子書籍だったのですが、

ログインしてお借りして、長崎県で読めたのです!

読みたかった本がすぐに遠方でも読めるという体験が、

とにかく新鮮でした。

いつも借りている方には「今更?」の電子書籍ですが(笑)、

わたしには本当に衝撃でうれしいことでした。

 

さて肝心の本の内容!

大好きなCozynestというブログの作者で、

建築家でもある彼女が小さな家に引っ越した後の

生活の楽さ、お金の節約について書いている本です。

 

わたし自身は引越しを終えて一つにまとまった時、

たくさんの荷物を見て驚いたばかり。

ミニマムに暮らすことが大好きなのだけれど、

やっぱり引っ越しをすると物の多さに驚愕します。

段ボールいくつなら次の引越しで楽だろうか?

そんなことばかりを考えていました。

 

尾崎さんは小さな家を選ぶメリットや、

キッチンの配置についてなど、

様々なご自身の生活の側面を参考にしながら

書いてくださっています。

大きな家と小さな家の固定資産税や、

生涯賃金も含めて書いてくださっているので

本当にわかりやすく、ためになりました。

そして、家自体の価値やごみになる資材のことなど。

考え方に共感できることばかりでした。

 

わが家は一度50㎡から一軒家に戻りますが、

今後を見据えて物の量は厳選していくつもり。

 

尾崎さんの説得力のある文章は、

家の大きさに悩んでいる方にぜひ一読して頂きたいと思います。

 

種というちいさな記憶体 岩崎『種をあやす』

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長崎の小浜温泉近くに、タネトという野菜の直売所があります。

プラスチックフリーで地元の元気な野菜を扱っているところ。

 

そこによく岩崎さんのお野菜があって、種取り農家さんという存在を

初めて知りました。

なるべく野菜は元気なオーガニックのものを食べたいと思っていましたが、

神奈川にいるときは生産者の方にまであまり想いが行き届いていませんでした。

けれど長崎で暮らしたことで、

生産者の方の顔がしっかり見える関係が沢山できました。

 

この本は岩崎さんの種取り、農業の様子、日々の静かな戦いが

良くわかる本でした。

戦い、というとなんだかですが、美味しい野菜を作るために

どれほど苦労なさったかが良くわかる本です。

 

本当はオーガニックであれなんであれ、食べ物は沢山の人の手を経て

スーパーに並んでいることを、長崎に住むまでは体感として全く

理解していなかったように思います。

季節の野菜はある程度理解していたけれど、

野菜の取れない端境期(はざかいき)があることも、

タネトに通ってよくわかりました。

 

野菜があるのは当たり前ではないことは、

自分でにんじんを育ててみて初めてわかりました。

そして種というものに対して、畏敬の念を持ちました。

だって、あんなに小さな一粒から、

緑がでてきてにんじんができるのです。

初めて小さなニンジンを畑から掘り出したとき、

静かな感動を覚えました。

 

農業に興味のない方にも、

岩崎さんの本を通して

ぜひ種のすばらしさに触れてみてください。

 

 

心の動きを丁寧に追う小説 群ようこ「れんげ荘物語」

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群さんの小説が大好きなのに、読んだことがなかったれんげ荘の物語。

先週のひととき、シリーズ全冊を楽しみました。

 

主人公は40代。

それまで嫌なことをして働いて、

気の合わない母親との生活をしていた彼女は、

仕事を辞めて働かないで暮らすために、

月々10万円で暮らすことにします。

見つけなければならなかったのは、

家賃の安い家。

そこで3万円のれんげ荘に移り住みますが、

れんげ荘は本当にぼろぼろのアパート。

シャワー室とトイレは共同。

だけれども主人公のキョウコは、

家にはなかった安らぎを感じます。

隣人たちもまた一癖ある人達だけれど、

家族よりもよっぽど気の合う人たち。

 

そんなアパートで始まったキョウコの毎日は、

仕事がないので毎日が自由。

聞こえはいいけれど、それまで必死で働いてきたキョウコは

そんな日々に慣れるのに苦戦します。

そのあたりの毎日の描写がリアルで、

そこが一番楽しめました。

何もしていないはずなのに、

キョウコの生活にはたくさんのことが起きていきます。

だって、れんげ荘シリーズは5冊も続いているんです。

もちろん小説だから、なのだけれど、

その出来事は誰の人生にもありそうなことばかり。

だからこそなのか?

その日常がとっても面白いんです。

1冊読み始めたら止まらなくなるはず。

 

読者の中にはキョウコのおかげでなんだか勇気が出て、

新しいことにチャレンジする方もいらしたのでは。

おとなりのクマガイさんがキョウコに言葉が素敵だったので、

ちょっと長いけれど『おたがいさま』から引用しておきます。

「あなたは幸せね。私、本当にそう思うのよ」

突然、そういわれてキョウコはびっくりした。

…(途中略)

「うん、わたしは見ていてそう思う。ここに来るまではいろいろなことがあったのだろうけれど、それをすっぱり切り離せたじゃない。世の中の多くの人は、いやだと感じていても、切り離せないのよ、ふつうは。いやだいやだと思いながら、毎日を過ごしていて、それがたまって顔つきに出ちゃうのよね。あなたはそれがないもの。私も会社を辞めたいとか離婚したいとか、何人もの人に相談されたけれど、その後、会社も結婚生活も辞めた人は一人もいなかったわね。」

…(途中略)

「だいたい本気で退社や離婚したい人は、相談なんかしないですぱっと思いきるわよね。相談するってこと自体、おかしいのよ。私はこういうふうにしたいのだけど、どういう段取りにしていいのかわならない、っていうのなら前向きな相談だけど、結局、あの人たちは不満を持っているのは間違いないけれど、同じところをぐるぐる回っているだけなのよね。そこから出るのなら、自分が思い切ってジャンプしないとね。誰も悩んでいる沼から身体を引き上げてくれるわけでもないし、自分で決めないとだめなのにね。それができないから、みーんなぐずぐずいつまでも沼の中で文句を言い続けて、それで一生を終わるんだよね。まだあきらめられる人は、それはそれでいいんだけど」

だからそれを切り捨てたあなたは幸せなのだと、クマガイさんはキョウコにいった。

 

 

遊びは生きるかて 西川正『あそびの生まれる場所』

       

日本の子育てを経験していて、

ほんとうに閉塞感を感じます。

電車やショッピングセンターにいる赤ちゃんたちは、

たいていスマホ漬け。

なかないため、親のため?もあるだろうけど、

一番は赤ちゃんが泣くと生まれる

まわりの見えないちくちく視線なのではないかと…。

子どもが小学生になっても、

つい「すいません」と謝ってしまうことが今でもたくさん。

だけどそんなぎすぎすした社会だけじゃないことを、

わたしは海外で生活をして知っています。

だから、子どもを自由に遊ばせる場だけは、

塾よりも習いごとよりも一生懸命探して連れて行っています。

 

保育園はしっかり1人の人として扱ってくれる、

きびしくものびのびとした園にいれました。

小学生になった時は、近くの森で自由に遊べる

プレイパークに通っていました。

プレイパークにはどれほど感謝していることか。      

たとえ子どもがけんかしても、親は口を出さずにいる。

棒切れをふりまわしても、

「人のいないところでやんな!」

ですむ。

あぶないかどうか、やってみないとわからない段差からのジャンプも、

あえて目をつぶってやらせる。

「危ないからやめなさい!」と止める大人がいないからこそ、

子どもたちが自分で学ぶことの大切さを

わたしはここで本当に身をもって知りました。

そしてその場にいる子どもたちの生き生きとした姿!
その関係性を良しと思ってくれる仲間がいたからこその

プレイパークでした。

 

著者もそんな遊びの場を作る活動をされているおひとり。

現状の「何かあっては困るから」の一言で、

様々な場所で遊びが生まれないでいる現状を知って、

わたしは本当に苦しくなりました。

プレイパークに初めてきた子どもの中には、

「この木にのぼっていいですか?」と

聞く子がいるそうです。

それを読んで、涙が出てしまいました。

遊びたいという気持ちが、どれほど制限されてきたのか…。

決してその子はその状態を不自由とは思っていないことも苦しい…。

 

暗いことばかり書いてしまいましたが、

この遊び場を作る天才の著者は、親も子も

当事者意識を主体にする遊び場をたくさん提案されています。

お客さんではなく、その場を作る人になる。

その意識が「何かあったら困る」状態を変えていく鍵だと。

 

はっとしました。

わたし自身もまた、子どもが遊ぶ場において

受身になっていなかったか?

せっかくの場を作り上げていく一員という自覚は、

あまりなかったのではないか?と。

 

遊ぶ場、子育ての場、教育の場における、

たくさんのヒントがありました。

もしご興味があったらぜひ。

 

時にやさしい本を手に取る 井田千秋『家が好きな人』

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勤務先にあって、「あ!」と思った本。

本のタイトルを新聞の帯で見つけた時から読んでみたかったんです、

この本。

 

中は漫画とコミックエッセイとの中間のような、

範囲が少しあいまいな本だと思います。

中は同じアパートに住む住人の、それぞれのインテリアや

生活そのものを題材にしていて、

お宅訪問みたいでとっても楽しい。

個人的にはもっとシンプルな家が好きだけれど、

この年代の頃だったら私も物がたくさんあることが好きだったな、

と思い出しました。

 

イラストもやさしくかわいらしい。

あれ、どこかで似たタッチの絵をみたことがあるな、と思ったら、

子どもが以前続編を読みたいと願った

『へんくつさんのお茶会』のイラストを描いた方でした。

また井田さんのイラストに何かの本で再会したいな。

 

ちょっとほっこりしたい気分にぴったりの本でした。

 

本屋さんが好き 朴順梨『離島の本屋』+『ふたたび離島の本屋』

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このところ本屋さんにとっても興味があって、

たまたま読んでいた本の最後にこの本の紹介があったことから読んでみました。

 

日本には、本当にたくさんの島があるんですね!

知りませんでした。

長崎に住んだときは五島・対馬壱岐があるので、

離島という言葉がだいぶ身近なものになりましたけれど、

離島という存在は、

関東の中にいるとなかなか意識が及ばないところがあります。

 

その離島の、しかも本屋さんをめぐる一連のブックは、

その島の読書事情にも思いを馳せることができる

すてきな本でした。

離島と、本屋を結び付けたところがこの作者のすばらしいところ!

ナイスアイディアに脱帽です。

 

このブログを書いているくらいなので、

私自身はきっと本屋さんや図書館がない場所では

生きていかれないと思っています。

けれども自分だけのためではなく、

島で本に出会える唯一の場所を開いている

たくさんの本屋さんを見ていると、

なんだか同士がどこの場所にも見つけられるのではという

あたたかな希望に包まれます。

 

いつか旅先で、この本に出てきた本屋さんに出会いたいな。

ケストナーへの深い愛 ケストナー『エーミールと三人のふたご』

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ケストナー作品と出会ったのは小学生の頃。

夢中になって読んだ『ふたりのロッテ』、もちろん『エーミールと探偵たち』も!

なのにこのふたごの本だけは、今まで読んだことがありませんでした。

良く通っていた図書館になかったのかしら?

 

でも、このタイミングで会って本当に良かった。

今回も『エーミールと探偵たち』と同じ登場人物が

たくさん出てきます。

今回の読書で気づいたのは、

こんな大人が周りにいてくれたら、と心から思う人たちが

たくさん描かれていること。

そして大人のような子どもも、たくさん描かれています。

大人に気遣ったり、やさしさがあったり、

すてきな子どももたくさん登場しています。

 

でも今回一番しみた言葉を発したのは、

エーミールのおばあさんでした。

以前もベルリンに住む魅力的なおばあさんは描かれていましたが、

今回はお母さんの再婚に悩むエーミールに大切な助言をたくさんしていました。

でも、もちろんそれだけではなくて、

彼女自身のセリフが心にしみました。

旅に出て、初めて海を見た時の彼女の一言。

「ああ、わたししはこのために長生きをしてきたのね」

とってもすてきでしょう?

 

今回改めてケストナーに出会って、

わたしは人への深い愛情を感じました。

ケストナー自身、戦争などで苦しんだ方のようですが、

それでも生涯人に対する愛を失わなかった方なのではないかと

本を読んでいて感じました。

ケストナーの作品は、

幼いころに読んでも今大人になってから読んでも、

どちらでも楽しめますし、心の深いところに届く本ばかりです。

小学生くらいのお子さんにも、大人のみなさんにも、

ぜひケストナーをお勧めしたいです。

 

みなさま、どうぞ良い週末を!