hon-nomushi’s blog

人生の友になる本との出会い

季節で読みたくなる本 田辺聖子『シクラメンの窓』

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 駅に近づくとき、郊外の私鉄電車はスピードを落す。手前のカーブがきついので、線路すれすれまで建った家々の軒を掠めそうになる。やがて駅へすべりこみ、するとホームを隠すような看板で、もう家々は見えない。産婦人科、金融、海老料理店などの看板がつづき、天井の切れたホームの鼻先に、駅前のショッピングビルがそびえる。

ーそのカーブの直前、線路沿いにひしめく民家に車体は傾ぐ。そのうちの一軒の平屋、出窓の一隅に白レースのカーテンが、襞多く畳まれていて、ガラス窓のうちに花の植木鉢が置かれているのが見える。

 冬から春はシクラメンで、夏・秋はべゴニヤか、ゼラニウム、いつも赤い花だった。

 

田辺聖子さんの『シクラメンの窓』に出会ったのはいつのことだったか。

いつしか思い立って田辺聖子全集をかたっぱしから読みあさっていた時に

出会ったこの短編を、こよなく愛しています。

 

この冬も再び、この小説が読みたくなって図書館で探しました。

何度読み返しても新鮮に感じられるこの冒頭を皆さんと分かち合いたくて、

長々と引用しました。

いつも読み返すときは話の筋にもう一度触れたくて、冒頭部分は

あまり思い出さず(せず?)に読み返すのですが、

冒頭を読むたびに惹き込まれ、変わらない新鮮さにはっとするのです。

 

舞台は大阪。1人暮らしの女性がある日この窓に飾る鉢を持ってきた男性と

知り合い付き合っていく短編です。

普段恋愛のものはあまり読まないのですが、

田辺聖子さんの恋愛小説は別もの。

どの主人公もさっぱりと自立していて、

なんだか読後もさわやかなせいでしょうか。

 

今年、うれしいことに全集でしか載っていないと思い込んでいたこの

シクラメンの窓』が、2冊の本に収められていることを知りました。

写真の2冊に含まれていました。

 

何度読んでも新鮮で、忘れられないこの「シクラメンの窓」。

普段本の所持にはドライなわたしですが、この作品に関しては

あまりにも大好きなものですから、

古い文庫を手に入れようと決めました。

 

今年もたくさんこのhon-nomushiブログを読んでくださった皆様、

ありがとうございました。

来年も細々と沢山の本と出会い感動・感激し、その作品を

皆様とブログで分かち合うことができましたら、

とても幸せです。

 

余談ですが、勤務先が学校のため図書館に足しげく通っていたら、

なんと校内2位の読書賞をいただきました(90冊)。

その話を家族に誇らしげに言いましたら、

ちゃんと働いているのかと言われました(笑)。

 

皆様、良いお年をお迎えください。