安房直子さん。
子どものころ、外国のお話にしか興味がなかったわたしが、
唯一といっていいほど読んでいたお話が安房さんのお話でした。
今でもそのころから持っていた2冊が本棚にあって、
時折読み返しています。
すぐれた児童文学作品は、ほぼ全ての作品が
子どもに向けているからといって手加減はされていません。
安房直子さんの作品も、不思議な出来事が起こるけれども、
現実の厳しさから目を背けたファンタジーではありません。
むしろ大人になって読むと、世間の様子がせちがらいほど
しっかり描かれているのに驚きます。
恐らく子どもながらにその本質に気づいていて、
何度も読み返す本となっていたのだと思います。
このコレクション1巻目は、
『なくしてしまった魔法の時間』というテーマで、
11の作品とエッセイが収められています。
この作品集の中で特にわたしの印象に残っていたのは、
「きつねの窓」という作品でした。
最時々お邪魔している藍染工房の方の指が、
物語のように青く染まっているのを見て、
この物語をふと思い出したのでした。
タイトルは覚えていなかったので、
お勧めすることができずにいましたが、
今回ようやくわかったので、
今度工房の方にお会いするときに、
お話してみようと思います。
物語の記憶は、本当に不思議です。
遠い昔に読んだはずなのに、
ふとした拍子によみがえってくることがあるのです。
例えば今回のわたしは、工房の方の青い指から
「きつねの窓」を思い出しました。
自分が体験しているわけではないのに、
記憶の中に深く刻み込まれる本の物語。
本物の物語とはこうして、
長く記憶に残るものなのだと思います。