hon-nomushi’s blog

人生の友になる本との出会い

ゆっくりと差し出される親切 E.L.カニグズバーグ『ティーパーティーの謎』

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親切ややさしさを、これみよがしに「大事にしようね」と差し出そうとする

物語がある。

いわゆる道徳の教科書に載りそうな物語たち。

この物語は上のような物語とは対極にあり、

親切ややさしさを、人にわからせずに最高のタイミングで

そっと人に差し出すような、そんな本物のやさしさが描かれている。

 

読み終えた時、深い感動のあまり動けなかった。

こんな風に、良きことをあからさまではなく、人に伝える物語を描く作家には

どうしたらなれるものなのか。

 

主人公は中学1年にあたる子どもたち4人と担任の先生。

「博学大会」のメンバーにそれぞれ選ばれているのだけれど、

それぞれの子に背景があり、静かな関わり合いがある。

そのあたりは実際に読んでいただくとわかるのだけれど、

決して人前やクラスでべたべたする4人ではない。

けれど、強いきずなで結ばれている。

そして担任の先生は、車いすの先生。

心無い子どもたちにやりこめられることもあるが、

4人のメンバーにひそかに助けられ、

尊厳を取り戻していく。

それぞれが傷つき、それでも

強く、静かに、互いへのやさしさを決然と持っている。

 

カニグズバーグの作品はどれも甘いお菓子のようなものとは対極にあり、

滋養にあふれた、本物のだしの効いたスープのような作品ばかり。

じわりとしみてきて、人が渇望しているものを与えてくれるような、

そんな作品ばかり。

だからこそ一筋縄ではいかないし、児童書の中でわかりやすさは

全く含んではいない。

けれど、一度カニグズバーグの作品を最後まで読み切ったら、

そこにはもう彼女の作品無しではいられない読後が待っている。

 

一筋縄ではいかない、体力のいる読書だけれど、

それでも心からお勧めできる。

大人こそ手に取って読んでみてほしい。

児童文学の奥深さ、底知れなさを感じるから。