hon-nomushi’s blog

人生の友になる本との出会い

時にやさしい本を手に取る 井田千秋『家が好きな人』

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勤務先にあって、「あ!」と思った本。

本のタイトルを新聞の帯で見つけた時から読んでみたかったんです、

この本。

 

中は漫画とコミックエッセイとの中間のような、

範囲が少しあいまいな本だと思います。

中は同じアパートに住む住人の、それぞれのインテリアや

生活そのものを題材にしていて、

お宅訪問みたいでとっても楽しい。

個人的にはもっとシンプルな家が好きだけれど、

この年代の頃だったら私も物がたくさんあることが好きだったな、

と思い出しました。

 

イラストもやさしくかわいらしい。

あれ、どこかで似たタッチの絵をみたことがあるな、と思ったら、

子どもが以前続編を読みたいと願った

『へんくつさんのお茶会』のイラストを描いた方でした。

また井田さんのイラストに何かの本で再会したいな。

 

ちょっとほっこりしたい気分にぴったりの本でした。

 

本屋さんが好き 朴順梨『離島の本屋』+『ふたたび離島の本屋』

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このところ本屋さんにとっても興味があって、

たまたま読んでいた本の最後にこの本の紹介があったことから読んでみました。

 

日本には、本当にたくさんの島があるんですね!

知りませんでした。

長崎に住んだときは五島・対馬壱岐があるので、

離島という言葉がだいぶ身近なものになりましたけれど、

離島という存在は、

関東の中にいるとなかなか意識が及ばないところがあります。

 

その離島の、しかも本屋さんをめぐる一連のブックは、

その島の読書事情にも思いを馳せることができる

すてきな本でした。

離島と、本屋を結び付けたところがこの作者のすばらしいところ!

ナイスアイディアに脱帽です。

 

このブログを書いているくらいなので、

私自身はきっと本屋さんや図書館がない場所では

生きていかれないと思っています。

けれども自分だけのためではなく、

島で本に出会える唯一の場所を開いている

たくさんの本屋さんを見ていると、

なんだか同士がどこの場所にも見つけられるのではという

あたたかな希望に包まれます。

 

いつか旅先で、この本に出てきた本屋さんに出会いたいな。

ケストナーへの深い愛 ケストナー『エーミールと三人のふたご』

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ケストナー作品と出会ったのは小学生の頃。

夢中になって読んだ『ふたりのロッテ』、もちろん『エーミールと探偵たち』も!

なのにこのふたごの本だけは、今まで読んだことがありませんでした。

良く通っていた図書館になかったのかしら?

 

でも、このタイミングで会って本当に良かった。

今回も『エーミールと探偵たち』と同じ登場人物が

たくさん出てきます。

今回の読書で気づいたのは、

こんな大人が周りにいてくれたら、と心から思う人たちが

たくさん描かれていること。

そして大人のような子どもも、たくさん描かれています。

大人に気遣ったり、やさしさがあったり、

すてきな子どももたくさん登場しています。

 

でも今回一番しみた言葉を発したのは、

エーミールのおばあさんでした。

以前もベルリンに住む魅力的なおばあさんは描かれていましたが、

今回はお母さんの再婚に悩むエーミールに大切な助言をたくさんしていました。

でも、もちろんそれだけではなくて、

彼女自身のセリフが心にしみました。

旅に出て、初めて海を見た時の彼女の一言。

「ああ、わたししはこのために長生きをしてきたのね」

とってもすてきでしょう?

 

今回改めてケストナーに出会って、

わたしは人への深い愛情を感じました。

ケストナー自身、戦争などで苦しんだ方のようですが、

それでも生涯人に対する愛を失わなかった方なのではないかと

本を読んでいて感じました。

ケストナーの作品は、

幼いころに読んでも今大人になってから読んでも、

どちらでも楽しめますし、心の深いところに届く本ばかりです。

小学生くらいのお子さんにも、大人のみなさんにも、

ぜひケストナーをお勧めしたいです。

 

みなさま、どうぞ良い週末を!

次の動きを見据えて学び ジェイソン・ヒッケル『資本主義の次に来る世界』

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今週は月曜日まで旅に出ていたので、ばたばたしていました。

普段は単身赴任の家族も家にいて、

なんだかスケジュールがぐちゃぐちゃ。

ようやく落ち着いてブログを書くことができます。

 

さて、今回の本は小説のように読みやすいものではなく、

経済の本です。

ですがとっつきにくい本ではなく、

読んでみると希望に満ちあふれた本です。

 

資本主義の様々な弊害が、地球全体に及ぼした影響。

人間が一番偉いと考えてしまうようになった様々な要因、

これまでの文化によって自然が無視されるようになったこと、

それが積み重なって地球がすっかり疲弊してしまったこと…。

著者は環境だけへの影響ではなく、わたしたちの生活を豊かにすることも、

今偏っている富の分配によって充分可能であることを示してくれています。

これからは成長ばかりを目指すのではなく、

分かち合いが主体となることで

様々な問題が解決可能である、とも述べています。

説得力のある様々な論を元に、

これからの社会に希望を持つための

色々な政策が述べられています。

 

もう、消費するだけの世界は終わりかけている。

だって、その先に完璧な満足感や幸せがないから…。

そこに幸せがないのであれば、

わたしは次は普通に生きる人が幸せをたくさん感じられる生活に

シフトして生きたいなあ。

過剰な広告によるあおられや不安感、

老いていくこと、ゆっくりすることが悪く思われる

今の風潮にはっきりノーと言って暮らしていきたい。

そして地球の負担も限りなく減らして生きたい。

これからの希望へつながる生活を創り出したい人への、

基盤になる本だと思います。

疲れた時の特効薬 群ようこ『たりる生活』

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「つ、つ、疲れたー」と言いたくなる日は誰にでもある。

もちろん、わたしにも。

そして、そんな時は仕事終わりの日が

うれしくてたまりません。

 

今週もブログアップが遅くなりましたが、

本は変わらず読んでいます。たくさん。

忙しくはなかったのだけれど、体調のメカニズムで

休みたいのに休めないのが辛かったな…。

でもなんとか乗り切りました。

 

そんな疲れた日は群さんの軽いエッセイがぴったり。

群さんの生活をこの「〇〇生活」シリーズで追っているものだから、

着物の片付け、長年猫とくらしていらっしゃることなど、

まるで知り合いの方のように色々知っている(つもり)。

著者の生活ぶりにとっても親しみを感じています。

 

今回の本ではなんと作者がついに引越し!

長年連れ添った猫が亡くなり、

そして小さな家に引っ越されることを決められたので

もう、とにかく片付け、片付けがメインに書かれています。

でも、もちろん捨てても捨てても減らない物ばかり。

片付けが上手くいかない様子がいつも通り

たくさん書かれていて、ユーモアもいっぱい。

思わずくすりとしてしまう場面がたくさんあって、

夜少しずつ読み進めるのが楽しみでたまりませんでした。

 

群さんのきどらないまっすぐな書き方と、

実は読者を1人にしない親切な状況の描き方が大好きで、

新刊が出るたびに楽しく読んでいます。

疲れたなあ…というとき、

群さんの本が、とってもおすすめです。

皆様、良い週末をお過ごしくださいね。

 

 

LGBTQの描き方 原田マハ『ロマンシエ』

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いつも一定の火曜日または水曜日、

そして金曜日にブログを書く予定でいるのですが、

最近週中が忙しくて、ブログが書けない時が続いています。

なかなか定期的にUPできずに、ごめんなさい。

少し落ち着いたので、来週くらいから定期的にUP

できるようにしたいと思っています。

 

気を取り直して。

そんな日々でも時間さえあれば本を読んでいるわたしが、

今回ご紹介したいのが『ロマンシエ』。

フランス語で小説家という意味です。

主人公は育ちのいい男の子で、好きな人は男の子。

彼は美術大学を卒業後、パリの芸術学校への入学が認められ、

パリで暮らし始めます。

日本で好きになった男の子のことを想いながらも、

パリの暮らしを心から楽しむ主人公。

ひょんなことから心から愛する小説を書いている

小説家を助ける役目に陥ります。

そして日本で決着がつかなかった

恋の行方も動き出します。

 

著者のフランスの生活の描き方。本当にリアルです。

10年以上前、わたしが暮らしたフランスの生活を思い出しました。

パリに住んでみるとわかるのですが、

きれいなだけではないパリの生活。

日本で根付いているイメージとは違うパリシンドロームという、

パリに幻滅するという言葉があるくらい。

だけれども日本で生きにくさを感じている人は、

パリの自由を感じて生き生きとされている方も多くて、

それがフランスでの、パリの生活の魅力。

 

パリでの生活のリアルな場面が描かれながらも、

小説の展開はロマンチックで事件にあふれていて、

展開の面白さはまるで映画のようでした。

何よりも主人公の人の良さを心から感じて、

すっかりファンになってしまいました。

 

そしてLGBTQをことさらに主張するわけでもない

主人公の描かれ方にも、心から感嘆しました。

ああ、素敵な小説だった。

 

いつか外国語で到達したいところ 李琴峰『透明な膜を隔てながら』

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美しい日本語を読みました。

李琴峰さんという作家の方をご存知でしょうか?

台湾出身、つまり日本語は第二言語

なのに、なのに、

なんて美しい日本語を書かれるのだろう。

読んだとき、心が震えました。

 

というのもわたしも外国語学習者だから。

こんなに外国語で表現できるなんて、

尊敬の気持ちだけが素直に湧き出てきます。

そして書かれているエッセイに記された

物事の観察力のするどいこと!

個人と国家の関係、

自分がタピオカを嫌いというと、

台湾の人は皆タピオカが実は嫌いなのかと質問されてしまうことなど。

 

外国語で小説を紡ぐということ、

第二の故郷で生きるということ、

全てのことが本当にわたし自身のあこがれることでもあります。

何度も読み返したくなる

素晴らしい作品でした。