小学生の頃、古本市で安房直子さんの本を初めて買って読みました。
そのころのわたしは、日本の作品を読むことはほとんどなかったのですが、
安房直子さんの作品だけは繰り返し、何度も読みました。
そしてその一冊は、今も手元にあります。
安房直子さんの本の一番好きなところは、
非現実的な世界にいく扉が主人公の近くにあるところです。
例えばこの作品では、豆を煮る名人のおばあちゃんが、お豆を煮ている間に
主人公、小夜のお母さんがなぜ家を出て行ってしまったのかという話をするのですが、小夜のお母さんはやまんばの娘なのだそうです。
煮豆を煮ながら、別の世界に思いを馳せるなんて、安房直子さん以外の方が描いたら
不自然極まりない状況なのに、まったく違和感を感じないのです。
ずっと魅了され続けていますが、
最近は異世界から再び現実に戻るところが、
本当に好きでたまりません。
(ここ以下は本を読んだことがない方にも、内容がわかってしまうように書いています)
特に小夜はお母さんが幼いころに出て行ってしまって、
お母さんを探しに外へ出て行ってたくさんの不思議な体験をするのですが、
この作品の最後は新しく小夜のお母さんになる女性が、
小夜のために料理を作ってくれるところで終わります。
最初のお豆を煮るところに、再び戻るような書き方です。
そして小夜はこれから、やまんばのお母さんではなく
新しいお母さんと生きていくのです。
その現実への戻り方も無理がなくて、
まるでスムーズな織布をずっと触っているような、
そんな感覚で読書を進められるのです。
大人になるとどこかファンタジーに、
「本当のことではないのだから」
とどこかブレーキをかけてしまうところがあるけれど、
安房直子さんの場合は現実と異世界がスムーズにつながっているので、
いくつになっても違和感なく読み進められるのです。
ちょっと疲れた時にゆったりしながら、
安房直子さんの世界を楽しんでみてください。