hon-nomushi’s blog

人生の友になる本との出会い

傷ついた体験を本という場でわかちあう 光野桃『実りの庭』

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大好きな光野桃さんのエッセイ。

中学生の時、どれほど光野さんの描くイタリアの美しい女たちに

憧れたことか…。

大学生の頃まで、光野さんのエッセイは本棚の大部分を占めていました。

その後少したって、文庫にしたり手放したりして、

いつの間にか少し距離ができていました。

 

図書館のエッセイコーナーで出会ったこの作品を読んで、

やっぱり好きだと思った光野さんの文章。

光野さんの文章には、傷つきやすい女の人や、

女の子が隠れているような気がします。

おしゃれが好きな故に翻弄され、上手くできない自分に傷つく。

大学生の頃、おしゃれな人たちに囲まれたわたしは、

まさにこんな感じで洋服については失敗してばかり。

そういった体験をやさしく包み込み、

前へとそっと肩を押してくれるような光野さんのエッセイ。

 

今回は対人関係で長年の友情がほころびてしまった体験を

綴られていました。

わたし自身にも、去年は対人関係において

深く傷つき傷つけてしまったことがあり、

全く詳細は違うけれども

まるで自分の傷ともう一度対面するような気持ちで

真剣に向き合って読みました。

 

本のいいところは、傷ついた体験をわかちあいながらも、

余計なアドバイスがないところ。

その先は、自分自身にゆだねられている。

似ているとはいえ、同じ体験ではないから。

本と読者という距離があるからこそ、人の傷ついた話も

静かにうなずいて読むことができるのだと思います。

そして、それは分かち合うという体験そのものでもある。

 

ああ、光野さん、この体験を文章にしてくれてありがとう。

光野さんの文章のおかげで、

わたしの傷ついた気持ち、人を傷つけてしまったやるせなさ、くやしさと

本という場で再びむきあうことができました。

 

誰かにやさしくしてほしいとき、

深く傷ついたときに

ぜひ光野さんのエッセイを。

そうだ、この作品は『実りを待つ季節』の続編だそうです。

そちらもまた美しいエッセイなので、一緒に手に取られてみてください。